伝統風水は自然科学や地理地相術にもとづく環境学で、中国の何千年という歴史のなかで育まれた豊かに生きてゆくための知恵でもあります。
その原理を理解するには、古代中国より伝わる世界観を知らなくてはなりません。また、陰陽や五行は、伝統風水だけでなく、あらゆる中国占術の基本となっている思想です。
そこで、まず伝統風水について正しく理解するために、これらの基本用語から見ていきましょう。
気とは?
風水の考え方を理解するには、まず気という概念を理解する必要があります。それは、ひと言でいうなら、大地に充満するエネルギーのようなものと表現してもよいかもしれません。
私たちのまわりには目に見えない、強力なエネルギーの流れがあまねく存在しています。その中にはよいエネルギーもあれば、悪いエネルギーもあります。
そして重要なのは、気は感応しあうという点です。つまり、エネルギーの流れとともに、調和か不和、健康か病気、繁栄か貧困のいずれかがもたらされるのです。
古代中国では、地球をめぐり、さまざまな場所で噴出している気というエネルギーをいかに上手に扱うかが研究されていました。そして、大地の気は風に吹かれると散ってしまうが、水によって蓄えられることを知り、このエネルギーを効率的に留める方法が考え出されました。これが風水です。要するに、風水とは大地の気の流れを読んで、いかに暮らしやすい環境を整えるかという技術なのです。
風水術においては、幸運をもたらすエネルギー、すなわち生気を活かすことが重要です。生気は曲がりくねりながらのびていきます。
風水術でもうひとつ重要なことは、凶運をもたらすエネルギーの流れ、いわゆる殺気を避けることです。風水師は、寝室、居間、職場、食堂その他の暮らしの場所で、こうした目に見えぬ殺気に触れたり、殺気をまともに受けたりすることをとにかく避けるようにと忠告します。
生気とは?
生気とは、私たちに好影響を与えてくれる気です。生気は私たちに幸運をもたらしてくれます。私たちの五感で気持ちよいと感じるエネルギーは、すべてこの生気に含まれます。生気には、美しい風景、きれいな音楽、心地よい手触り、よい香り、おいしい味など、私たちの五感にとって好ましいものはすべてが含まれます。これ以外にも、いわゆる第六感で感じ取る生気も存在します。例えば、人々が仲良く歓談している部屋に入ったときになにげなく感じる気持ちのよさであったり、なにかよいことが起きそうだという予感といったものです。
殺気とは?
殺気は、ネガティブで好ましくない気です。これは、不運をもたらし、私たちに悪い影響を与えます。殺気は私たちの感覚に対して不快なものすべてを含みます。殺風最な景色、オートバイのけたたましい排気音、コンタクトレンズのごろごろした感じ、汚染された川のにおい、腐った食べ物の味など、すべて殺気を発します。生気と同様、殺気にも第六感を通して感じるものがあります。例えば、自殺者が住んでいた空き家に入るときのぞっとする感じ。自分に敵意を持った人から発せられる雰囲気。何か嫌なことが起こりそうな予感、などです。第六感における殺気は、怒り、嫌悪、嫉妬などという感情により、具現化します。
陰陽とは?
風水には基本となっているいくつかの思想がありますが、そのひとつが陰陽説です。
陰陽説とは、この世界のすべてを陽(プラス・能動的・前進・積徹的)と陰(マイナス・受動的・後退・消極的)の二元論によって説明してしまおうとする考え方で、易経をその典拠とします。
これは宇宙に陰陽が生まれる前に根源としての太極があり、太極から陰と陽という二つの力が生まれたという世界のはじまりに由来しています。
陰は女性原理、陽は男性原理を表し、静と動、暗と明、冷と熱……といった二つの対立する性質を万物のなかに見ることができるのです。
図1 - 太極図
上の太極図が、この陰陽を象徴的に表しています。下に向かう黒い部分が陰、上に向かう白い部分が陽で、陰が強くなればやがて陽に、陽が強くなればやがて陰になることをあらわし、陰と陽には移りかわりがあることを示します。
これは、夜から昼へ、冬から夏へというような移りかわりに置きかえればわかりやすいでしょう。時の移りかわりは、陰と陽の移りかわりで起こると考えるわけです。
また、陰や陽がいちばん多くなっている部分の目玉のようなものは、陰の中の陽、陽の中の陰をあらわし、いくら強くなっても完全な陰や完全な陽がないことを示すものです。
変化の書『易経』は、世界の文献のなかで最も重要なもののひとつです。その起源は伝説に包まれた太古の昔にさかのぼります。そして中国文化5000年の歴史に登場する偉人や重要人物のほとんどが、『易経』からインスピレーションを得たり、その文章や意味の解釈に寄与したりしています。
『易経』の元となるものが作られたのは、4500年ほど前です。その頃伝説の皇帝伏義(ふくぎ)が、3本の線からなる8つの卦を書いたといわれています。
その後、周(紀元前1150-249)の創始者である文王は、この八卦を組み合わせて六四卦を作りました。文王はまた六四卦のひとつひとつに短い判断の文句「卦辞」を添え、定評ある『易経』哲学の知恵の土台を築きました。
さらに文王の息子である周公は、卦のひとつひとつの線「爻」についての言葉「爻辞」を書き、それぞれの爻に意味を与えました。周公の作り上げたものは「周易」とよばれるようになり、占いに使われるようになりました。数多くの古史書にも記録されているこれらの易は、『易経』の哲学を大きく広げ、『易経』に占いとしての意味を与えたのです。
この『易経』の本文、卦辞や爻辞、さらにはその喚起するイメージについて、生涯を傾けて研究を行ったのが孔子です。孔子は「翼(よく)」とよばれる一連の解説書を書くことによって、易経の世界をさらに広げました。
『易経』だけは独裁者、秦の始皇帝が行なった有名な焚書坑儒でも、他の古典とともに燃やされる運命をまぬがれました。その頃までに占いと魔術の書としての地位を確立していたからです。
『易経』が知恵の書とみなされるようになるのは、さらに下って226年頃のことです。宋の時代(960-1279)までには、『易経』はますます発展し、経世と人生哲学の書と考えられるようになりました。
中国最後の王朝、清の時代には、『易経』の解釈と解説は、再び魔術的な色彩を帯びるようになりました。そして今日では中国の高尚な占いの書とみなされています。『易経』の集大成が最終的に成立したのは、清の康帝(こうき)(1654-1722)の時代のことでした。
五行とは?
陰陽説と並んで、風水の重要な考え方になっているのが、五行説です。世の中のすべての事象は、木・火・土・金・水という5つの要素で説明できるという考え方です。
下の五行配当表からもわかるように、季節や色、形、気候、感情、味覚、素材……など、私たちが目にしたり、感じたりするものは、すべて 五行によって語ることができます。
木 | 火 | 土 | 金 | 水 | |
---|---|---|---|---|---|
聖獣 | 青龍 | 朱雀 | 黄龍 | 白虎 | 玄武 |
季節 | 春 | 夏 | 土用 | 秋 | 冬 |
色 | 青 | 赤 | 黄 | 白 | 黒 |
人体 | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
感情 | 怒 | 喜 | 思 | 憂 | 恐 |
味覚 | 酸味 | 苦味 | 甘味 | 辛味 | 塩味 |
気候 | 風 | 熱 | 湿 | 燥 | 寒 |
素材 | 木製のもの | 皮・プラスチック | 土製のもの | 金属製のもの | ガラス・クリスタル |
石 | トルコ石 | ローズ・クオーツ | タイガーアイ | ムーンストーン | 水晶・へマタイト |
形 | 円柱状 | 三角形、円錐形 | 台形、平らなもの | 円、丸いもの | 波状 |
陰陽と五行は、合わせて陰陽五行説と呼ばれ、風水はもちろん、中国のあらゆる占い、漢方医学や鍼灸医学などの中国医学でも用いられています。
相生・相剋とは?
陰陽と同じく、五行もまた相互作用を繰り返しています。相互作用には二つの法則があります。
ひとつは、互いが相乗効果で良い相性を生む相生(そうじょう)、もうひとつはお互いに力を弱め合う相剋(そうこく)です。
相生は創造のサイクルで循環します。
木をこすりあわせると火が生まれる →
火は燃えて土に還る →
土の中から金が生まれる →
金を冷やすと水が生まれる →
水は木を育てる →
……となります。
生じられる五行は強くなりますが、生じる五行は自らのエネルギーを消費するために弱くなります。
たとえば、「水」と「木」の関係では、生じられる「木」は強くなりますが、生じる側の「水」は弱くなってしまいます。
図2 - 相生
相剋は破壊のサイクルで循環します。
木は土から養分を得る →
土は水の流れをせき止める →
水は火を消す →
火は金を溶かす →
金属は木を切る →
……となります。
相剋(そうこく)の関係では、どちらの五行も弱くなります。剋す側の五行はやや弱くなる程度ですが、剋される五行はかなり弱くなります。
たとえば、「水」と「火」の関係では、「水」も「火」によって蒸発してしまうので、多少弱くなりますが、「火」は「水」によって消されるので完全に弱くなります。
図3 - 相剋
風水では、この二つの法則を使って、家の中のバランスを保つことがポイントになります。
たとえば、あなたにとって西が凶方位だとしたら、西の五行は「金」なので、ほかの五行を使って「金」を弱めればいいのです。
普通に考えると、「火」を使って、直接「金」を剋す方法が手っ取り早いように思われますが、相剋でぶつかり合うと、どちらの五行も消耗して弱くなると考えます。
この場合は、「金」が生じる「水」を使って、「金」の勢いを弱める方法を用いるのが一般的です。
ただし、この関係を用いると、本命卦自体の五行を弱めてしまうことがあります。たとえば、本命卦の五行が「金」である「乾」の場合。
五鬼方位の東(五行は「木」)を化殺するときに通常どおり「火」を使うと、「火」と相剋の関係にある本命卦(五行は「金」)のパワーまで弱まってしまいます。
この場合は例外として、「金」を使って直接「木」を剋す方法を用います。
八卦とは?
陰陽は正反対の方向性を持つエネルギーで、男性原理と女性原理、光と闇、夏と冬など、対極的な性質を与えます。
しかし、宇宙のすべてがきっぱりと陰陽に分けられるのではなく、夏と冬の間には春と秋があるように、陽の中にも陰を含む陽があったり、陰にも陽を含んだ陰があります。
こうして陰陽が「陰の陰」「陰の陽」「陽の陰」「陽の陽」となり四象(ししょう)とされました。
八卦(はっか)はこの四象をさらに陰陽に分けたもので、乾(けん)・兌(だ)・離(り)・震(しん)・巽(そん)・坎(かん)・艮(ごん)・坤(こん)の八種類となります。
易の経典である『周易』の「繋辞上伝」第十一章には、次のような記載があります。
易に太極あり、
これより両儀が生まれ、
両儀より四象が生まれ、
四象より八卦が生まれ、
八卦は吉凶を定む「繋辞上伝」第十一章
その構図を図で表すと、下の「伏儀八卦(ふっきはっか)順序図」のとおりになります。
図4 - 伏儀八卦順序図
八卦には、自然の成り立ちを説く先天八卦と、実用的な後天八卦があり、現代では後者を使うことが多いです。
先天八卦は、紀元前三千年前後の皇帝といわれる人物・伏儀(ふっき)が自然を観察したことにより考案したといわれています。八卦の内の乾は天として上に配置され、坤は地として下に配置されています。
図5 - 先天八卦図
その後、周代の最初の皇帝である文王の手により後天八卦が完成しました。後天八卦は季節に対応しています。
図6 - 後天八卦図
風と雷を春の要素としてそれぞれ南東と東に配置し、火は夏の要素として南に配置し、沢と天を秋の要素としてそれぞれ西と北西に配置し、水を冬の要素として北に配置しています。
八卦の表で注意しなければならないのは、南が上になっていること。ふだん私たちが地図を書いたり読んだりするときは、北が上になっていますが、風水では南が上になります。太陽は私たちの頭の上から照らしています。ですから北は太極の下になります。
八卦には、数字・人物・方位・身体の部位・五行など、さまざまな意味が含まれています。下の表は、それをまとめたものです。
象 | 八卦 | 数字 | 性質 | 家族 | 動物 | 方位 | 身体 | 五行 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
乾 | 6 | 天 | 父 | 馬 | 北西 | 頭 | 金 | |
坎 | 1 | 水 | 真ん中の息子 | 豚 | 北 | 耳 | 水 | |
艮 | 8 | 山 | 一番若い息子 | 犬 | 北東 | 手 | 土 | |
震 | 3 | 雷 | 長男 | 龍 | 東 | 脚 | 木 | |
巽 | 4 | 風 | 長女 | 鶏 | 南東 | 尻 | 木 | |
離 | 9 | 火 | 真ん中の娘 | 鳥 | 南 | 目 | 火 | |
坤 | 2 | 地 | 母 | 牛 | 南西 | 腹 | 土 | |
兌 | 7 | 沢 | 一番若い娘 | 羊 | 西 | 口 | 金 |